【2021/08/14 3面】ワクチンデマに注意!


ワクチン接種が進む中、いま世界では様々なワクチン接種に関するデマが発信されています。
「ワクチンを打つとマイクロチップが埋め込まれる」「不妊になるようだ」など、若者が目にする機会の多い、TwitterやYouTubeなどでデマが飛び交っています。

情報の真偽を客観的に検証する「ファクトチェック」の普及に取り組むジャーナリストの古田大輔氏に聞いた。

ふるた・だいすけ 1977年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。朝日新聞記者、ネットメディアのバズフィードジャパン創刊編集長などを経て、現在は米IT大手グーグルに勤める傍ら、ジャーナリストとして活動。認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ理事、公益財団法人NIRA総合研究開発機構上席研究員などを兼務。

■金もうけ、社会的優位、愉快犯…/流す側には意図

SNSでよく見られるワクチンデマは?

古田氏
古田氏

「ワクチンを打つとマイクロチップを埋め込まれる」「ワクチンで遺伝子が操作される」などが典型だ。ワクチンがいかに悪意を持って作られた危険な物かという内容が多い。ただし、国内において、これら荒唐無稽なデマの影響は、海外で危惧されているほど大きくない。日本の教育水準の高さなどが寄与しているのだろう。

古田氏
古田氏

一方、根強いのが不妊に関するデマ。「ワクチンで不妊になるようだ」などと語られる。この「……ようだ」といった微妙な表現が厄介だ。素人目には真偽を確かめづらい。人々の心の中にある、少しの懸念や恐れともつながりやすい。私はそれを「恐怖の共感」と呼んでいる。デマの拡散は、不特定多数のインターネットの世界にとどまらず、口コミを通じて身近な人へも広がっている。

デマの特徴は?

古田氏
古田氏

日本でよく知られた言葉に「フェイクニュース(虚偽情報)」があるが、情報を扱う専門家の間ではもう、別の言葉が主流となっている。それが「ミスインフォメーション(意図がない誤情報)」「ディスインフォメーション(意図がある偽情報)」「マルインフォメーション(意図があり、特定の対象への明らかな攻撃的意志がある不正情報)」の三つだ。

古田氏
古田氏

デマは、ディスインフォメーションやマルインフォメーションに該当する。つまりデマを流す側に意図があるということだ。しかも、デマを作った人は「金もうけ」で、拡散する人は「事実と信じ込んでの正義感」や「愉快犯」といったように、制作者と拡散者で意図が異なることがある。こうした意図をあらかじめ知っておくと、デマへの予防線となる。

古田氏
古田氏

また、ネットの特性として、少数派の意見であっても、拡散を繰り返すことで目立たせることができる点に注意したい。実際、英米の非営利団体「反デジタルヘイトセンター(CCDH)」は、今年3月の報告書で、SNS上のワクチンに関する虚偽情報の65%は12人が発信源だったことを明らかにしている。

■受け手のニーズ敏感に/政治は信頼情報増やせ

デマの影響力を抑えるには?

古田氏
古田氏

分からない事や気になる事があれば、今はネットで検索する。グーグル、ヤフーのほか、ツイッターやインスタグラム、TikTok(ティックトック)など、情報を入手する手段が多様化している。

問題は、信頼できる情報を求めて探しても見つからない場合だ。これを「データの赤字」と呼ぶが、マスメディアや政治の側は、正しい情報を発信するだけでは不十分だ。受け手のニーズ(需要)にもっと敏感になり、それに応える発信を増やす必要がある。そうしなければ、デマに負けてしまう。

古田氏
古田氏

今は便利なツール(手段)もある。例えば、無料の「グーグルトレンド」は、ある単語が特定の期間・場所でどれだけグーグルを通じて検索されているか、その傾向をグラフで確認できる。「ワクチン」が関心の高い言葉であることが一目瞭然だ。また、それが「副反応」「予約」などと一緒に検索されていることも分かる。

 

ワクチンの接種率向上に向けたアドバイスを?

古田氏
古田氏

問題をデマだけに矮小化しないことだ。正確な情報であっても、文脈がつながっていないとミスリード(誤った方向に導くこと)が起こり得る。この点を肝に銘じてほしい。特に副反応については、「ワクチン接種後に○人死亡」のように因果関係を曖昧にした科学的な文脈抜きの報道は、報道それ自体に間違った要素がなくても、結果的にワクチンへの恐怖感を強く喚起する。


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